TALK01 某IT企業社長のお悩み(コロナ禍の組織生産性)×ヒトミル

相談者
某IT企業 社長
相談内容
コロナの影響で在宅勤務にしていたが生産性が下がっているようなのでオフィス勤務に戻したい…が、不満に思う社員もいそうなので判断に迷っている。
ヒトミルテスト活用状況
全社員受験済のため、社員の仕事への動機や性格特性が明らかになっている状態。

コロナを契機に在宅を始めたものの、アウトプットが明らかに少なってきたような気がする。
在宅をやめてオフィス勤務に戻すと不満を言い出す社員もいそうで、戻すかどうか悩んでいるのですが。

アウトプットが少なくなったというのは、人に依る、というのが本来の実情ではないでしょうか。
生物学者 ハンス・セリエのストレス理論によると、今回のように勤務体制などの「大きな変化」が起こると、個人差無く3か月後に身体的な反応が表れると言われています。
この理論で考えると、貴社で言うとパフォーマンスが在宅勤務開始から3か月ほど経過したタイミングで如実に下がりだしたのではないでしょうか。
もっとヒトミルテスト結果的に言えば、アナリティカルな社員(感情表現・主張が少なめ、論理的に仕事をしていきたいタイプ)は
パフォーマンスに変わりなく、安全動機×親和動機のエミアブルの社員(社内の人と雑談交え、コミュニケーションを取りながら働きたいタイプ)が
パフォーマンスが低下する傾向にあったのではないでしょうか。

これは、社員を十把一絡げにして見ると解決できない問題です。
なので、

・誰が(どのような性格行動特性を持つ人)がアウトプットが下がっているのか
・対して誰が変わらないのか(もしくは誰が上がっているのか)

個人ごとに見ていきませんか。

なるほど。たしかにそうですね。
アウトプットが下がっているのは全体のスケジュールが後ろ倒しになっているからだと思います。
営業がお客さんと交渉して、制作の現場に依頼をして制作チームで話し合って、サイトを制作していくという
全体の流れが遅くなっていて。それならオフィス勤務に変更した方がいいかなと。

その意味で、正確に状況を捉えられるデータは貴社内にありますか?営業で言えば数字ですが、その他バックオフィスやエンジニアでもどうですか?

そうですね。弊社側の対応が順繰りに遅くなっている印象です。
オフィス勤務の時ももちろんある程度は発生していたのですが、在宅になって顕著になった印象です。

なるほど。
在宅勤務になり顕著になったスケジュール遅滞。
お伺いしたいのは、それは社員全員に当てはまる事例なのでしょうか。
また、遅滞している人にとって在宅だと遅滞してしまう要因の仮説は何でしょうか。

営業が制作に伝えるところまでは遅延していないので、制作チーム内の作業や会議で遅くなっている印象があります。
オフィスでディレクター、デザイナー、コーダー、ライターが同じ空間にいるとコミュニケーションロスが少ないのですが
在宅勤務でオンラインだけのコミュニケーションとなって複数人でのコミュニケーションに支障が出ているように思います。

そこまで追えていらっしゃるのですね!
ちなみにコミュニケーションロスが少ないというのは、平常時は場所的な同時性を活用して、偶発的な会話(※1)がいくつも起こっているような場面を想像して良いでしょうか。
※1:「ねぇ、ちょっとこれみて、変じゃない?」「そうだね、こうしたら?」などの会話

おっしゃる通りです。あと制作チームの現場からは会議の時間が長くなっていると聞いています。

なるほど。
制作チーム内のヒトミルテスト結果を見てみましょう。
ヒトミルテスト結果により、各個人の性格行動特性や言動がそのチームに与える影響、つまり「チームダイナミクス」が予見できます。

ヒトミルから何かわかりますか?

達成動機よりも親和動機/安全動機優位な社員が制作チームの半数を上回り、2/3を占めますね。
この割合ですと、和気藹々とした空気感のあるチームでしょう。

なるほど。たしかによく飲みに行ったりしてるみたいです。
ランチもみんなで一緒によく行ってました。

親和動機/安全動機優位な社員の場合、ちょっとしたことを気軽に確認できる環境を好みます。
コロナ禍で、慣れない在宅勤務の形態ですと雑談が少ない環境ですので、
非常にやりにくいと感じている状態です。在宅勤務は何月から実施されていますか。

3月から在宅勤務に切り替えています。

3月からですか。
それでは、ハンス・セリエのストレス理論を参照すると、在宅勤務開始3か月後…6月頃には、パフォーマンス、特にレスポンスの悪さが表れる社員がいたでしょうね。

あ、いました。社内で利用しているチャットシステムで話しかけてもすぐに返事がないとかで。
それでチャットで話しかけれたら5分以内で返すというルールを決めたりしています。
でも、だんだんとなあなあになってきていて。

先にご説明したストレス状態、つまり雑談が少ない環境ですと、親和動機/安全動機優位の社員は平時の対応が難しくなります。
具体的には、チャットが来ると「注意されるのでは…?」と思いチャットツールを開けなくなるということもあります。
単純に離席が多い場合もありますが、ヒトミルテストの結果を見ると、この親和動機/安全動機優位な社員グループは「内向的」な特徴があるようです。
この場合、コロナ禍における緊張状態から、保身・逃避と自己を守る態勢に入っていることを想定した方が良さそうです。

そうですね。あと、返事が遅い特定のメンバーを中傷するような社員も現れ始めています。

このような社員が2/3で構成されていると、互いに慮って同調圧力が働きます。
そして、「自分がされて嫌なことは人にしないように」と思うようになり、集団浅慮(※2)が起こります。
よって、互いに連絡、リプライを待つようになったのでしょう。
それは日に日に進捗は遅れますね。よくあるパターンです。
※2:同調圧力により、集団で決定された意思や方針の質が個人で考えたものよりも劣ってしまう現象

オフィス勤務に戻すのがいいかなと考えていますが、どうでしょうか?
ただ、不満をいう社員も確実に出てくるので、そこが悩ましいです。
完全在宅をうたう制作会社も多いので、転職していかないか不安です。

結論として、私も同じ策を考えます。
しかしながら、世論の全体感とは真逆をいきますので、経営者として説明責任がありますよね。
社員からの不満はコロナ禍関係なく、どのタイミングでの決断でも出るものです。
まずは、社員に対してどのような説明が妥当そうか、案を挙げてみましょう。

達成動機の高い社員から不満がでそうな印象です。その社員が辞めてしまうと困るのですが、どうしたら…。

在宅したいのにできないなら、そうですよね。
しかし、ポイントは果たして本当にそうでしょうか。
私の案を申し上げます。

案1:パフォーマンスが上がっていない親和動機/安全動機優位の社員に、連絡遅滞などの客観的データを見せた上で現状を納得してもらう
案2:チームとしての問題であることを強調する
案3:チームとして、どうしても在宅だとパフォーマンスを上げにくい社員が多く存在するため、体制を変えたいと伝える
案4:「チームとして」と繰り返し言っている通り、一部在宅でもパフォーマンスが変わらない人にとっては迷惑になることも承知していることを伝える
案5:オススメは、達成動機の人に
 ・こういった状況で一丸となるために勤務体制をローパフォーマーに合わせて戻す必要がある
 ・その局面さえも理解して達成してくれそうなのはあなたしかいない
…という期待と役割を与える。
転職されてしまうコストを考えたら、多少の手間があっても、やる気を起こさせるような動機付けをしておくのが得策でしょう。

なるほど。全員を出社に戻して、達成動機人は個別に説得するというはありですね。
このような話は制作チームのメンバーに個別に話すべきですか?

そうですよね。
個人の性格特性が分かっても、付け焼刃ができないのが、仮にこのような個別性のある対応をする場合です。
当たり前なことではありますが、Aさんにとって嬉しいことでも、Bさんにとっては残念なこともある。
しかし、それを会社側は客観的に捉えた上で、最高のパフォーマンスに近づくために采配していく。
…というメッセージを常日頃から出すことで、個人の違いへの理解が深まります。

そうなんですよ。ハイパフォーマー(達成動機)だからといって、その人だけを在宅を認めるとローパフォーマー(エミアブル)がものすごく不平不満を言いそうです。

貴社内の組織風土によるのですが、私としては個別の方が良いと思います。
和気藹々としているように見えるエミアブル同士に限って、抜きん出る人を許さないところがあるためです。
ですので、全体ミーテイングでワンクッション置いた上で、個別に話をするのが良いと思います。
具体的に申し上げますと、
「昨今のパフォーマンスを鑑みて、多くの人にとってやりにくさがあっては残念なので、見直すことにしました。
個別性も十分に考慮した上での決定ですので、プライバシーも考えて、詳細は個別にミーテイングさせてください。」@全体ミーテイング
等、あくまで全体に向けて配慮した体で伝えるのが良いでしょう。

なるほど。
ちなみに個別に伝える相手は、制作チームのリーダーに任せて大丈夫でしょうか?

貴社内のチームダイナミクス上の、制作チームリーダーのパワーバランスに依りますが、社長はどうお考えでしょうか。安心して任せられますか。

はい、彼なら大丈夫だと思います(社長の心の声:自分が話して嫌われたくないからリーダーに任せよう)

ちなみに、今回の取組みにおいて声を掛ける側の人は尊敬される側ですので、ご心配ありません。
なぜなら、性格特性を考慮し、配慮して対応をしようとしている話ですから。
繰り返しですが、人は十把一絡げにはできないことを前提としています。
これは、組織として非常に健全で、先進的かつ成熟した取り組みです。

論理はわかるのですが、在宅をオフィス勤務に戻すっていう話だけで嫌われそうで怖いです。

社員の反応が気になるときには、
1.先手必勝で枕詞を使う
 例:「嫌われそうで今胃が痛いんですが…」
2.個別性を理解した好意的なトーンを強調し続ける
 例:(諸々説明後)「でも一人一人を思うと、この決断になりました」
3.パフォーマンスが下がり続けた場合、社員の身に起こり得るダメージに触れる
 例:「ダメ元で、このまま全員同じように在宅勤務を続けていても、みなさんにボーナス等で苦しみを共有してもらうことになりかねない」
…という方法がオススメです。

なるほどです。
ちなみに、社員より「パフォーマンスが下がったのは一時的で在宅に慣れてきて、パフォーマンスはこれから上がってくるはず」
と反論されたらどうしたら…。

ハンス・セリエのストレス理論の本を渡しましょう。
3月から今のままで待てた会社は素晴らしくはありますが、3か月なんです。
3か月でパフォーマンスが下がった方法は、性に合っていないということです。
つまり、悪い意味で継続します。そこを理解してもらう必要があります。

なるほどなるほど。納得しました。ありがとうございました。

とはいえ、不安は出てくると思いますので、繰り返しご質問ください。
また、例に出した説得的ご発言は不慣れな場合口が回りませんので、お風呂などで練習されてくださいね(笑)

わかりました(笑)